伊藤忠商事と伊藤忠エネクスは5月1日、ジェイ・ウィル・パートナーズとともに株式会社WECARS を発足。旧ビッグモーターの事業を会社分割により継承した。街中の店舗は見た目こそ何も変わっていないが「お客様の信頼を勝ち取るべく、不退転の覚悟で改革を推進」と決意表明した社内では、果たして、再生に向けた大手術が行なわれていた。
まず、ビッグモーター買収の動機は 「大きく3つあった。一つ目は、ライフサイクルにおいて中古車関連事業というのは非常に重要な仕事だったこと。日本のあらゆる業界をみても主要事業のひとつであり、私自身も自動車は『公器』と捉えていた。二つ目は、自動車がどんどん高度化していくなかで、どの会社が整備や修理をするのかを考えた時に、全国128の工場を展開している当社が役に立てるのではないかと。最後は6000人以上いた社員が路頭に迷う状態だったので、単純に救いたかったということだ」
社長の打診があった時の心境は 「非常に驚いた。当時はイギリスに赴任していて、伊藤忠商事が買収に手を挙げていたのは知っていたが、まさか私に話が来るとは思っていなかった」
自身のどの辺りを期待されたと思うか 「イギリスでアフター関連の仕事をしていたのもあるが、アメリカで企業再建に長年携わっていたので、おそらくその経験や知見を買われたのではないかと思っている」
現在の店舗数と社員数は 「248店舗、社員は約4100名だ」
小売りや買取りの現状は 「当社が5月1日に設立されて約3ヵ月経った。その間に、買取りは以前の70%程度まで戻ってきた。買取りは価格勝負の面もあるので、実績を出せるのが比較的早い。一方、小売りは信用商売になるため時間が掛かる。ただ管理顧客は1回いなくなった状態から、徐々に戻ってきている」
AA市場は相場高騰が続いているが 「在庫車を出品すれば手っ取り早く利益が出せるのは分かっているが、それはやらない。買取りでも『安く買い叩いて利益を出そう』というような指示も出していない。お客様の求める価格に近いところで買取り、小売りに回している。売れると判断すれば、AA相場以上でも強気で買う。オークション仕入れはほとんどしておらず、薄利多売の自給自足で回している状況だ」
旧会社の名称が店舗やウェブに残っている 「看板など名称が残っている部分は、多摩店を皮切りにすべて入れ替えを始めた。今年12月初旬までには全店舗のリニューアルが完了予定だ。ホームページなどのウェブ関連はすでに名称変更が終わり、車検名称も『ビッグ車検』から『WE!車検』に変えた。後はドメインの一部に旧社名が残っているが、それもすべて変える。旧会社の痕跡は一切、残さない」
アフターサービスについて 「整備工場の指定取り消しや認証工場の事業停止処分などを受けているため、国交省にお願いして再開に向けた準備をしているが、アフターサービスの対応はすぐにはできない。そこで同じ伊藤忠グループが資本参画するナルネットコミュニケーションズと契約を結んだ。同社の持つ1万1700ヵ所の整備工場ネットワークを活用して、アフターサービスを受け付けていきたい」
自動車保険については 「当社では保険業務を扱えないので、伊藤忠グループのほけんの窓口グループが店舗に無人・有人のブースを設けていく。まずは19店舗の店内に専用ブースとオンライン端末を設置し、1店舗にはリアル店を出店する。スタッフはお客様に『保険はあちらのブースで扱っています』と案内するだけで、完全に分けている」
旧会社の報酬制度がクローズアップされたが 「お客様からの評価を基準とした新制度を導入したい。以前は台粗利に対してインセンティブを付けていたため、個人戦になっていた。これを店舗やチーム単位で収益を分け合うような仕組みに変えたい。今秋までに策定する予定だが、お客様を見て仕事をすれば、それに見合った報酬が受け取れるようにする」
中長期的な実績目標は 「正直言ってそれどころではない。今は小売りや買取りの宣伝も一切、流していない。まずは信頼回復に向けた法令遵守などの基礎固めを会社設立からずっとやっている。正しいことを正しくできるような文化を社内で育てるのが最優先課題だ。その先に、社員が『残って良かった』と思えるような会社になれば、実績は自然と付いてくると考えている」
【プロフィール】 1963年3月生まれ。61歳。早稲田大学卒。85年伊藤忠商事入社、18年執行役員。終始穏やかで紳士という印象。「あまり怒らず怒鳴ったこともない」との言葉が素直に伝わってくる。
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