物流業界では「2024年問題」を目前に控えるなか、積載車による輸送ではなく、回送輸送で業界に参入した企業が話題となっている。栃木県小山市に本社を置く株式会社AM・Tの阿美賢司社長は、物流会社の役員を長年にわたって務めた後、一時的に引退していたが、関東エリアに限定した回送輸送を始動させた。 回送輸送にこだわったのは、荷主に対する適正価格の提供と納期の厳守。価格については、ワンウエイ(片道)ではなくツーウエイ(往復)方式であれば「2024年問題」に直面しても適正な価格を提供できると判断。一般的に、納車先から帰り便を確保するのは難しいように思えるが、阿美社長が持つネットワークを活かし、ほぼ100%ツーウエイ方式で運行している。 また納期を厳守することは、回送だからこそ確実に実現できると阿美社長は言う。積載車では複数の車両を1人のドライバーが玉出し(会場から車両をピックアップすること)から荷積、荷下ろしまでやらなければならないが、回送であれば、1人に対して1台であり、荷積や荷下ろしなどの作業はない。 なおかつ関東エリアに限定しているため、新たな制度下でも残業することはほとんどなく、時間内に納車することができるからだ。 さらに、回送輸送は差別化にもつながると話す。積載車輸送にはできない走行中の異音や振動を察知し、車両の不具合を荷主にタイムリーに情報提供できる。AA会場では走行検査は行なっていないため、検査員でも分からない有益な情報であり、荷主からとくに好評を得ていると言う。 このような差別化を強化していく上で、ドライバーのスキルアップにも注力している。先日は、全国の中古車事業者へ査定研修を展開しているNPO法人自動車流通市場研究所(中尾聡理事長)の峯島英二講師を招き、ドライバー全員に対して「車両チェック研修」を実施。 トラブルを未然に防ぐ走行前チェックや、走行中に察知した異音や振動による不具合の判別の仕方をはじめ、簡単な修復歴の見分け方、オークションでクレームになるか否かの判別方法まで、幅広い講義を受けている。 同社の取り組みは、何かと暗い話題が先行する物流業界にあって、一筋の光明と言えるのではないだろうか。写真左・阿美賢司社長写真右上・自動車流通市場研究所から講師を招いた講義写真左下・車両チェック研修の様子